読書の三つの効用

知識を得る方法の一つとして、ネット全盛のいまとなっても、いまだ読書がもっとも効率のよい方法であることは、疑いのないところです。その理由は、

1.著者が(それなりに)スクリーニングされていること
2.知識が整理されていること
3.第三者の目を通っていること

です。

本を出したいという人はたくさんいます。しかし、実際に出す人は限られています。コンテンツを持っているか、そのコンテンツに市場性はあるか、文章を書くことができるかなど、総合的に判断されます。出版にまでこぎつける人は、それなりにスクリーニングされて、残った人たちだということができます。

また、本になったものは、内容も整理されています。整理しなければ、文章にはならないからです。エッセイのようなものであっても、かならず思考は整理されています。文章にすることは、整理することだからです。文字で読むのは、話を聞くことと比べて臨場感には欠けますが、整理されている分、知識が効率よく頭に入ってきます。

さらに、自費出版でないかぎり、本を出すまでのプロセスの中で、かならず複数人の目を通っています。少なくとも編集者の目を通っています。編集者は数多くの本に触れ、作ってきたプロフェッショナルです。読んで価値がない文章を市場に出すことはありません。

これらのことを考えると、本というメディアは、それなりのハードルを越えてきているものですから、質のボトムラインは保証されているといえます。

しかし、読書が「知識を得る」ための効率のよい方法だからといって、読者が「知識を得る」それだけのために本を読む必要はありません。それだけではもったいない。

本をあまり読まないという人のなかには、「知識だけ得ても、頭でっかちになるだけ」と言って、読書を毛嫌いする人もいますが、それは本の効用を「知識を得る」ことに限定して考えているからです。

本を読むことの効用は、「知識を得る」以外にもいくつかあります。

経験の質を高める

本を読むこと、そのものでは学びはあまり多くありません。本を経験すること、いわば「本をする」ことで学びが多くなります。本を読んで、それが最も学びになるのは、自分の経験と、本に書いてある内容が合致したときです。「なるほど、そういうことだったのか!」と、自分の経験の「意味」を理解したときです。言葉として認識することで、自分の無意識に沈んでいた知識が、意識上に浮かび上がってきます。言葉として表現されたものは、再現できるのです。再現できれば、さらに洗練していくことができます。言葉が経験の質を高めるのです。
たとえば、『頭の回転数を上げる45の方法』に書いた「段階的詳細化」というアプローチは、その言葉は知らなくても実践している人はたくさんいます。「最初はラフにつくって、それからブラッシュアップするほうが速い」ということを経験的に知っているのです。しかし、これはあくまで経験則であって、経験した特定のシーンでのみ、意識上にのぼってきます。ここで「段階的詳細化」という言葉を知ることで、経験則が意識化され、他のシーンでも使えるようになるのです。

アイディアの誘因となる

ここのところ、アイデアに関する本がたくさん出ていますが、こういったアイデア本ではなくても、本を読むこと自体が、アイデアを引き出してくれます。本を読んでいると、それが刺激となって、本に書いているわけでもないのに、「あ、こんなことやってみたらどうかな」と思いつきます。これは、自分のなかにあった知識が、本を「誘因」として、表に出てきたのです。
私は原稿を書くときは、最初に関連文献といっしょに、まったく関係のない本も読みます。それは参考にするというより、自分の中にある知識を引き出すためにやっています。いわば、「本と対話する」ことで、アイデアを引き出しているのです。

モチベーションを高める

「やらないといけないことはあるけど、なにから手をつければいいか、わからない」とき、「モチベーションが上がらない」と、モチベーションのせいにしてしまいがちです。『頭の回転数を上げる45の方法』に書きましたが、「やりはじめることで、やる気がでる」のであって、はじめからやる気がないのは当たり前なのです。頭は動かすことで、やる気を出すからです。
こんなときにも、とりあえず本を読むことで、頭の動きに助走をつけることができます。これは何も、元気が出るような本を読むのではなく、できればちょっとむずかしいぐらい、頭を使うぐらいのレベルの本がいいです。「何から手をつければいいかわからない」というのは、思考が分散している証拠です。本を読むことで、分散した思考を絞り込むことができます。すると、何から手をつければいいのかが、自然とわかってくることが多いのです。

「知識を得る」以外の読書の効用を、三つ挙げました。これらを総合すると、「読書は頭を動かす」ための優れたツールだということができます。「知識を得る」だけでは、受け身の活動です。能動的に読書に取り組むことで、読書の効用は何倍にもなります。

学生の頃はよく本を読んだけど、社会人になってから全然読まなくなったという人も多くいます。それでは非常にもったいない。

読書の効用を知って、少しでも本を読む時間をとっていただければと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA