プロセスという切り口でいうと「プロセス改善」というのが一般的です。開発プロセスの改善、営業プロセスの改善、物流プロセスの改善など「プロセスは改善しなければならない」という意識は、比較的浸透しているようです。
しかし、「プロセスをデザイン(設計)する」という話はあまり聞きません。私は「プロセスデザインコンサルタント」として活動しています。「プロセス改善コンサルタント」とは名乗っていません。
なぜ、「改善」ではなく、「デザイン(設計)」なのか。
もちろん、改善をしないというわけではありません。私自身も長く「プロセス改善」に携わってきました。改善することで大きな成果も生み出してきました。改善の効果はよく知っています。
プロセスデザインアプローチには3つの要素があります。それは、
デザイン(設計)
インプルーブメント(改善)
マネジメント(管理)
の3つです。
この3要素をすべて含んだものが、プロセスデザインアプローチです。
ビジネスにおいて成果を生み出すためには、この3つの要素が必要です。どれが欠けても、成果を期待できません。なぜなら、この3つの要素すべてが、「実行」に作用するからです。
そして、いまの日本にいちばん必要なのが「デザイン(設計)」なのです。
「改善」と「デザイン(設計)」、どちらもイノベーションを実現する取り組みです。しかし、イノベーションの種類が異なります。イノベーションには、二つのかたちがあります。すなわち、
「インクリメンタル・イノベーション」
「ラディカル・イノベーション」
の二つです。
「インクリメンタル・イノベーション」とは、改善を刻みながら、少しずつ洗練していくことを指します。あらゆるモノ、プロセスは、はじめから完璧なものはできません。実際に運用しながら、よりよくしていく、欠点を克服していく。もしくは、時代にあわせて修正していくことが必要です。つまり、改善とは「インクリメンタル・イノベーション」を実現するものということができます。
「インクリメンタル・イノベーション」は、日本の得意とするところです。毎日、何かを変えていく。少しずつよくしていく。その積み重ねで素晴らしいものを作り上げることができます。
しかし、変化を常とするビジネスの世界では、「インクリメンタル・イノベーション」には限界があります。それは、すでにあるものの延長線上でしか、よくならないということです。
企業が成果(売上・収益・成長)を生み出すための活動のつながりを、「バリューチェーン」といいます。このバリューチェーンが時代にマッチし、成果を生みだすように設計されていれば、「改善」は効果を発揮します。しかし、このバリューチェーンが時代遅れとなり、陳腐化していれば、いくら「改善」をしても成果はのぞめません。成果は設計を超えることはできないからです。
多くの企業は「いまあるもの」がすでに陳腐化しているにも関わらず、それを洗練しようとして苦境に陥っています。日本という国全体で苦境に陥っているのは、「モノづくり」全盛時代のやり方に固執し、すでに構造的に陳腐化していることに気づいていないからです。「モノづくりが日本の競争力の源泉」などというスローガンはその最たるものです。
バリューチェーンが陳腐化したときに必要なことは、すでにあるものを考慮せず、ゼロベースで考え直し、新たな価値を創造すること、つまりラディカル・イノベーションなのです。改善ではなく、新しく「デザイン(設計)」しなければならないのです
一度つくりあげたバリューチェーン、プロセスは、ある程度の期間、価値を生み出してくれます。それをさらに洗練して、価値を高めることも可能です。しかし、時代が移行し、市場が変化すれば、陳腐化を余儀なくされます。
そのときに、改善するのではなく、あらたに設計できる力を持っているかどうかが、企業の浮沈を左右するのです。
改善は必要です。しかし、あくまでも「デザイン(設計)」があってこその「改善」なのです。